JR小岩駅から歩いて8分ほど。路地を曲がった先に、南小岩ペットクリニック 医療サポートセンターはあります。1974年に開院し、犬・猫・うさぎ・ハムスターを診ている動物病院です。
2025年7月に院長を引き継いだのは、この街で生まれ育った杉本国貴院長。病院を継いだ理由や、その場でエコーを当てる診察、できるだけ院内で治療を終えるための工夫、猫のための待合室、そして飼い主さんへの伝え方について伺いました。
「この街の方たちに、恩返しがしたい」
——獣医師を志したきっかけと、これまでのご経歴を教えてください。
私は二代目になります。母がここで開業して、その姿を見て育ったというのが、まず一番大きいところです。生まれたときからずっと動物に囲まれて生活していましたので、自分もその動物たちの役に立てる仕事がしたい、とは思っていました。
本格的に目指そうと思ったきっかけは、母の病院で働いていた、ほかの獣医さんたちです。小さい頃にすごくお世話になっていて、その方たちが日夜診療に励む姿を見ていたことも、大きな影響ですね。
大学は日本大学の生物資源科学部で、最終的には外科学の研究室に所属していました。そのつながりもあって、千葉県八千代市にある動物病院の軟部外科センターで、3、4年ほど勤務しました。終盤は、実家と呼ばせていただきますけど、こちらの手伝いもしながら、向こうとこちらを行き来して働いていました。
この病院で副院長として本格的に勤務し始めたのは、2019年度です。そこからは、母が院長として支えてくれる形で仕事をさせてもらいつつ、世代交代の準備も同時に進めて、昨年、2025年の7月に院長を交代しました。
——獣医師になった時点で、いずれは継ごうと考えていたんですか?
いや、最初はそう思っていなかったですね。
——そうなんですね。新しく自分の場所を構えるのではなく、ここを継ごうと決めたのは、どうしてですか?
母の思いもこもっていた病院なので、続けられる限りは形を残していきたい、という思いがありました。
それから、自分も小さい頃からこの街で育って、患者さんもそうですし、それ以外の地域の方々にも、本当に多くの方に支えられて成長してきました。どこかで地域の方たちに恩返しがしたいと思って、この地でやろうと決めました。

——長くこの場所にあって、「あそこに動物病院がある」と知られているのは、大きいですか?
知ってもらえているというのは、大きいですね。この路地に入り込んだところで新しく始めたら、たぶん誰にも知られずに埋もれてしまうと思います。母も、ここにあえて路地の中に建てたのには、理由があったそうなんです。
——そうなんですか?
大きい道でドーンと構えるよりも、入り込んだところにあることで、見つけたときの安心感を、と言っていました。
公式サイトには、前院長の杉本恵子先生(現在は顧問)の言葉として、1988年に今の病院を建てたとき、通りに面した目立つ場所は選ばなかったことが書かれています。病院を必要とする人が角を曲がって出会ったときに、ほっとできる場所でありたい、という思いからだそうです。
——来られる飼い主さんの年齢層は、幅広いですか?
近くの方が中心ですけど、母が院長をやっていた頃は、どんどん年齢層が上がっていったと思うんです。私が入ってからは、結構ばらけてきました。若い方も増えましたし、昔から来てくださる方もいらっしゃいます。
——長く続いている病院だからこそ、先生が院長になる前から来られている方もいらっしゃるんですね。
やっていて感慨深いのは、患者さんの娘さんや息子さんたちが、また縁があってうちに来てくださって、その息子である私が診る、ということです。地域とのつながりを感じますね。
——お互いに代替わりして。
そうやって、動物を飼う環境を支え続けられるのは、幸せなことだなと思います。
——このあたりの飼い主さんは、どんな方が多いですか?
やっぱり気さくな方というか、下町ならではの、本当にフランクな空気感の方が多いですかね。逆に今は小岩も開発が進んできて、若い方も増えてきているので、今っぽい雰囲気の患者さんの層も増えてきました。新旧が混在してきて、病院もそんな感じになってきています。
——今は、何名体制で診療されているんですか?
獣医は2〜3名です。母もまだ仕事を続けていて、母を入れて3名でやっています。基本は2名で回していて、パートの獣医さんにも入ってもらいながらですね。看護師は基本3名に、受付のパートの方などがいます。
——スタッフの皆さんは、どんな方が多いですか?
基本的には明るいですし、こういう下町の患者さんと話していくので、自然とみんな気さくで、フランクな人が多いですかね。僕より看護師さんのほうが、患者さんと仲がいいです。お菓子を持ってきてもらったりとか、いろいろちょこちょこあるみたいですね。
「できるだけ、ここで完結できるように」
——院長になられてから、変わってきたことや、変えていることはありますか?
院長になる前から、本当に少しずつ、いろいろやりたいように変えさせてもらってきています。母の代は、自然療法やオーガニックといった、母の好みが強く出た病院で、それはそれで、それがいいという方が来てくださる病院でした。私としては、そういうところを否定はしすぎずに、近隣の方やいろんな方が入りやすい、オーソドックスな形に少し戻しつつ、昔ながらのいいところは残していければと思っています。
昔の病院から変わったところでいうと、健康診断などの予防医療には、ほかの病院さんと同じように力を入れています。それから、画像診断は私も得意というか、好きな分野なので、超音波やレントゲンなどを使った画像診断を積極的に取り入れています。その先の外科の治療も含めて、本当にその子にとって一番必要なもの、最適なものを最速で、というのをモットーに努力しています。
——この病院ならではの診療について、教えてください。
エコーを使った迅速な診断は、ほかの病院さんにもあるかもしれないですけど、私は「立位」といって、動物を人の手で押さえて寝かせたりせずに、立ったまますぐ当てられる技術を身につけています。
エコー(超音波検査) 体の表面に器具を当てて、お腹や胸の中の様子を画像で見る検査です。立位は、立った姿勢のことです。
診察室に入ったら、一度お預かりしたりせずに、ときには患者さんに支えてもらいながら、その場でお腹の中や胸の中をパッと見るようにしています。そのほうがオーナーさんも安心しますし、説明しながら見られるので、二度手間にならず、時間も減らせます。
あとは、消化器内科にも力を入れていて、内視鏡検査も、画像診断の一つにはなりますけど、積極的に行っています。なかなか治らない嘔吐や下痢なども、幅広く診ています。

それと、基本的な私の考えとして、CTが必要な症例や難しい手術の症例など、大学病院や二次診療施設に紹介せざるを得ないときも、時にはあるんですけど、極力そうしたくないんです。
二次診療施設 かかりつけの動物病院からの紹介を受けて、専門的な検査や治療を行う動物病院のことです。かかりつけの動物病院で受ける診療は、一次診療と呼ばれます。
私が元々働いていた病院が、何でもやる病院だったというのも大きいですけど、やっぱり今は、とにかく費用が高くなってしまっています。安くやってあげるのが正解だとは思わないんですけど、特にこういう小岩の地区では、ある程度、患者さんにとって現実的な金額に寄り添わないといけない。そういう思いもあって、極力うちで完結できるようにしています。
例えば整形外科の手術であれば、整形を専門にしている先生に、その都度来てもらって手術しています。今はほとんど、そのやり方です。CTが必要な症例でも、CTは撮ってきてもらって、手術はここでやったりもします。
あとは、CTを撮ったあと、麻酔を覚まさずにそのまま手術したいときや、副腎の腫瘍や肝臓の腫瘍の摘出のような大きな手術のときは、先ほどお話しした八千代の外科センターに私が連れて行って手術をして、こちらに戻ってくる。入院はこちらで、という形です。こういうケースは結構多いですね。できる手術はこちらでやりますし、難しいものでも、患者さんがいろいろ移動するのは、できるだけ避けるようにしています。
——いつもの場所で治療を受けられるのは、いいですよね。
やっぱり、動物にも患者さんにも、いろいろ転々とさせるのは、かなりストレスになります。
——院長になられて、ここからどうしていきたいですか? 診療の幅や設備も含めて教えてください。
今まさに、いろいろ試行錯誤しているところなんですけど、外科手術に関しては、できるだけここで完結できるように、私自身、技術を高めていきたいと思っています。
血液検査の系統は、もう今は結構いろんな機械が入っているので、一次診療でできることとしては、今のレベルをできるだけ落とさないように、という感じですね。今は病院で、コルチゾールやT4といった内分泌の検査も、すぐ測れるようになりました。診断するときに院内でできるのは、すごくありがたいです。
コルチゾール・T4 コルチゾールは副腎、T4は甲状腺の働きを調べるときに測るホルモンです。
——外部の検査結果を待たなくてもいいんですね。
はい。
——セカンドオピニオンで来られる方も多いですか?
多いのかどうかは、ちょっと比較が難しいですけど、一定数、セカンドオピニオンでもいらっしゃいます。
セカンドオピニオン 今かかっている病院とは別の獣医師に、診断や治療方針についての意見を聞くことです。
——やはり、このあたりの方が多いんでしょうか?
そうですね、江戸川区から千葉のあたりです。

「猫の扱いには、すごく自信があります」
最近は、猫の診療にも力を入れています。広いからこそ、猫の待合室を作って、そこから直接診察室に行けるようにしています。できるだけワンちゃんやほかの方との接触を避けられるように心がけたり、フェリウェイスプレーといって、猫がリラックスできるようなフェロモン剤を部屋に置いたりもしています。

先代のときから、保護猫など、猫を扱うことがすごく多い病院なんです。最近はだいぶ減りましたけど、捕獲した野良猫の避妊・去勢をしたり、里親さんが見つかるまで預かったりもしています。最近は保護猫団体さんのご助力もいただきながら、昔とは少し形を変えています。
スタッフ自体、本当に野性味のある、気性の荒い猫など、いろんな猫ちゃんを扱ってきた経緯があって、私もそうなんですけど、猫の取り扱いには、すごく自信があります。キャットフレンドリークリニックのような資格は、形としては取れていないんですけど、それに近い形で、もう少し発信していけたらいいなと思っています。
キャットフレンドリークリニック 猫が受診しやすい環境や対応を整えた動物病院を、国際猫医学会(ISFM)が認定する制度です。
公式サイトのスタッフ紹介を見ると、ねこ医学会(JSFM)が認定する「CATvocate」を取得した獣医師や動物看護スタッフも在籍しています。
——部屋ごと分けられているところは、なかなかないですよね。ワンちゃんと猫ちゃんの比率でいうと、どうですか?
うちはちゃんと数字を取っていないので、具体的な数字はないんですが、健康診断をやると、ほかの病院より猫が多いみたいです。結構、猫は多いんじゃないかなと思います。
「伝わっていなかったら、こちらの責任」
——飼い主さんとのコミュニケーションや伝え方で、心がけていることはありますか?
これは、よく覚えている教えなんですけど、相手がどんな人でも、伝わっていなかったらこちらの責任、ということは、よく肝に銘じていました。
飼い主さんは、いろんな心境で焦って来られていたり、あまり厳しいことは聞きたくないという方もいたり、いろんなタイプの方がいらっしゃいます。その方たちに、できるだけ簡潔に、でも大事なところが抜けないように説明する、という意味では、かなり気を使っています。伝わっているかどうか、相手の目を見て何度か繰り返したり、最後に質問がないかももちろん聞いたりして、何度も確認しながら伝えるようにしています。
言葉を話せない動物の治療をしていくうえで、患者さんの理解度は、本当に欠かせません。理解できているかどうかをこちらが察しながら説明していくのは、本当に難しいなと日々思いながら、でも大事にしてやっています。
——飼い主さんが、どれだけ見られているかも違いますよね。
なので、動物に対する患者さんのスタンスも見極めながら、治療法の提案の仕方も変えています。逆に、伝えすぎていっぱいいっぱいになってしまう方もいるので、そういうときは、伝えすぎないリスクはありますけど、できるだけ不安にならないような表現を使ってみたりしています。相手を見て、いろいろ考えてやっています。
——どこまでしたいか、どこまでできるかも、本当に違いますよね。
あまり費用をかけられない方に、あれもこれも話しても、マイナスのイメージを植え付けてしまいますし、逆にいろいろやりたい方にさらっと話を終えてしまうと、「もっとこうしてほしかった」という場合もあるので、本当に難しいんです。そこを一つひとつ、なんとなく感じ取りながら、言葉の順番を変えたり、「こういうこともありますよ」とお伝えしたりしています。
——本当はこの選択肢もあったのに、と思わせてしまうのは、つらいですよね。
結構あるんですよね、「そのとき説明を受けていれば」というのは。僕も、もっと若いときにそういう経験がありました。こちらが伝えていなかった、ということがないようにしようとは思いつつ、伝えすぎてもいけない。本当にフィーリングですね。
——院長になると決まったとき、不安はありましたか?
あります。代表が変わるというだけで、いろんな視点で「この病院、こう変わっちゃったな」と思われることも、たぶんこれからもあり続けると思います。そういうときに、自分の色を大事にしつつ、この病院がずっと大事にし続けてきたものも大事にしたい。母が大事にしてきたのは、本当に患者さんとのつながりでした。今のご時世では叶いにくい面もあるんですけど、母がつなげてきた人とのつながり、要は地域とのつながりを大事にしていきたいと思っています。
不安としては、変わることで途切れるつながりができないか、ということです。技術的な面では、そんなに不安はないです。
動物病院の院長は、改めてハードな仕事だなと思います。診るのは動物ですけど、その動物が何と言っているかは、正確には分かりません。人とはある程度通じ合えますけど、それでも人の心のやり取りになるので、できるだけ不信感を与えないように努めるのは、やはり精神的にすり減る部分もあります。でも、そこをちゃんと乗り越えて、動物をちゃんと元気にできたときは、やっぱりやりがいのある仕事だなと思います。何しろ、動物が元気になってくれるのが一番うれしいですね。
——院長として、獣医師やスタッフの皆さんに伝えていることはありますか?
母が大事にしてきたことも、やっぱり大切だと思っています。なので、スタッフには、簡単に言うとホスピタリティ精神ですかね。できるだけ患者さんの立場に立って、先ほども言ったように、相手の方がどう考えているかを常に考える、ということです。もちろん動物がメインの話ですけど、動物を治すためにも、患者さんの立場に立つ。ちょっとした言葉を一つ添えるだけで、全然印象は変わるので、突き放すようなことはしないように、とよく言っています。

——近隣の動物病院との連携はありますか?
東京都獣医師会の江戸川区の支部に、昔から所属しています。この間、私に代が代わって、院長として所属を引き継ぎました。ほかの病院さんにかかっている方が、夜間や、その病院さんがお休みのときに来られたら、次の日にはその病院に戻ってもらうようにしています。そういった意味での連携になるんですかね。
4月には狂犬病の注射に行っていますし、この間は地域のお祭りでも、獣医師会としてブースを出しました。地域で獣医同士がつながっておくことは、大事だと思っています。結局それが、患者さんにも返ってくると思います。
——初めて来られる方や、これから来られる飼い主さんに、ひと言お願いします。
本当に、気軽に何でも相談してもらえたら、というのに尽きます。うちに来てくださっている患者さんで、一度ほかの病院で診てもらったことを、気まずくて言えない方がいらっしゃったんです。でも僕は、それは全然気にしないでほしいと思っています。僕だって、病気によっては、いろいろ病院を変えたりしてみることもあるので、その辺は気にせずに来てもらえたらと思います。いいように利用してください、ということは言いたいですね。力になれることがあれば、できるだけ全力を注いでいます。
——病気によって、病院を使い分けている飼い主さんもいらっしゃいますもんね。
実際そうですね。最近は、だいぶそうなってきたのかもしれないですけど、別にそういう使い方で構いません。とは言っても、うちもできるだけいろいろできるような体制は整えているので、幅広く対応できるようにと思っています。
南小岩ペットクリニック 医療サポートセンター
診療時間やアクセス、診療内容などの詳細については、公式サイトをご覧ください。
| 所在地 | 〒133-0056 東京都江戸川区南小岩6-15-28 |
|---|---|
| 電話 | 03-3673-2369 |
| アクセス | JR小岩駅より徒歩8分/病院専用駐車場5台 |
| 診療対象 | 犬・猫・うさぎ・ハムスター |
| 受付時間 | 月・火・木・金・土 10:00〜12:00/16:00〜19:00 水・日・祝 10:00〜12:00/14:00〜16:00(完全予約制) |
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