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うめやしきアニマルクリニックの生薬の棚
インタビュー動物病院
大田区・梅屋敷の動物病院

「病気を見つけなさい」とは言いません。うめやしきアニマルクリニックに聞く、中医学と養生

取材: 2026年9月17日 / 取材・文: 動物病院ナビ編集部

京急線の梅屋敷駅から、東通り商店街の方へ歩いて3分。うめやしきアニマルクリニックは、2021年に緑川久美院長が開院した動物病院です。犬と猫のほか、ウサギやハムスター、鳥などのエキゾチックアニマルも診ています。

西洋医学の検査や治療に、鍼灸や漢方といった中医学(中国の伝統医学)を組み合わせているのが、この病院の特徴です。病気になってから治すだけでなく、病気になる前から体を見ておく。院長が「養生」と呼ぶその考え方と、飼い主さんと一緒に学ぶ取り組みについて伺いました。

うめやしきアニマルクリニックの外観
外観。商店街の中にあり、駐車場はないため、車で行くときは近くのコインパーキングを使います(公式サイト)

自分のやりたいものを、しっかり飼い主さんに打ち出せるように

緑川久美院長
緑川 久美
うめやしきアニマルクリニック 院長
獣医師。北里大学獣医畜産学部卒業。墨田区・町田市・川崎市・文京区の動物病院に勤務し、国際中獣医学院日本校で中医学を学ぶ。国際中獣医鍼灸師、中医漢方獣医師などの資格を持つ。2021年6月に梅屋敷で開院(公式サイト)。

——まず、開業までのご経歴を教えてください。

卒業したのは、もう25年ぐらい前です。大学は北里大学で、ご存じのとおり、青森の自然の中でした。ワンちゃん猫ちゃんというより、牛や馬、ニワトリといった自然のものに囲まれて、十和田キャンパスで5年間過ごしたんです。

卒業後は、実家のある四国で1年ほど学んでから、やっぱり東京に行きたいと思って出てきました。それからはずっと、東京や関東の病院で、何軒か勤務医をしてきたんです。夜間救急も経験して、どちらかというと西洋医学の治療を中心にする病院にいました。

もう10年以上前になりますかね、町田の病院に行く機会がありました。そこの院長が野生動物のワクチンの普及活動もされている方で、町田という土地柄、野鳥やタヌキ、ハクビシンまで担ぎ込まれてくるんです。そこで初めて、犬猫以外の動物と接する機会ができました。

エキゾチック、面白いなと思って、本格的に勉強したくなりました。それで、犬猫に加えてエキゾチックも診ている病院を川崎で探して、勤務することになったんです。

エキゾチックアニマルは、犬と猫以外のペットのことです。うめやしきアニマルクリニックでは、ウサギ、ハムスター、鳥、モルモット、チンチラ、ハリネズミなどを診ています(公式サイト)。

実はそこに、中医学の鍼灸もやっている先生がいて、初めて鍼灸に触れました。鍼灸も面白いなと思っていたんです。エキゾチックと並行して勉強するうちに、鍼灸に触れる機会が増えたので、その世界も勉強してみようと、国際中獣医学院に受講生として入学しました。その後はご縁があって、卒業後は講師も務めていました。

鍼灸は、ツボに鍼やお灸で刺激を与える治療です。うめやしきアニマルクリニックでは、髪の毛ほどの細さの、使い捨ての鍼を使っています(公式サイト)。

鍼灸と西洋医学の二本柱でやってきて、エキゾチックも西洋医学中心で診ていたんですけど、エキゾチックにも鍼灸や漢方を合わせられないかな、という発想が出てきたんです。でも勤務医なので、自由にはできません。病院の方針があるので、自分のやりたい医療が、どうしても実現できないジレンマがいろいろ出てきました。

年齢も年齢ですし、自分のやりたい病院は、自分で箱からつくった方がいいのかなと思ったんです。それで開業したのが、ちょうど5年ぐらい前です。うちは、ワンちゃん猫ちゃんとエキゾチックの割合が半々ぐらいです。ワンちゃん猫ちゃんについては、中医学の治療を希望して来られる方が圧倒的に多いです。

——場所は、どうしてこの辺りに決めたんですか?

これは変な話なんですけど、私は四国の田舎の出身なので、東京に行きたいといっても、東京のどこに住むかなんて知らないわけです。実は、獣医になりたいと思う前は、映画監督になりたいとか、映像の世界を目指していたんですよ。

そんなとき、たまたまうちの猫が病気になることが続きました。田舎なので病院もあまりなくて、ちゃんとした医療も受けられなかったんです。それで、じゃあもう獣医になろうと、進路を変えました。

東京のどこに住むかで悩んだときに、羽田空港の近くでまず調べてみたら、大田区の蒲田が『砂の器』に出てくるあそこだったんです。それで蒲田に決めました。最初に慣れた東京が、大田区のこの辺りの、ごみごみした町工場のある土地だったので、いろんなところを転々としましたけど、最終的にはやっぱりここにしようかな、と思ったんです。

——最初から開業を考えていたわけでは、なかったんですか?

最初はなかったですね。

俗に言えば、勤務医の方が楽なんですよ。もちろん責任を負うことはあっても、そこまでではなかったんです。

でも、いろんな分野の勉強を重ねて、いろんなことを知る中で、医療の幅はまだまだ広がるのに、それができないという現状がありました。当時は、余計なことをしないで大人しくしていなさい、という時代だったんです。人と違うことや、奇をてらったことをやろうとすると、どうしても嫌われてしまうところがありました。

でも、それで一生もやもやしていくわけにはいきません。ちゃんと覚悟を決めて、自分のやりたいものを、飼い主さんにしっかり打ち出せるようにしないといけない。そう思って、やっと覚悟が決まったんです。遅かったですよ。

——開業を目指す方もいれば、勤務医として経験を積んでいきたい方もいますよね。

そうですね、そう思います。でも、自分が思っていることや信念は、一応、病院のカラーとして出しているので、それに共感してくれる患者さんが、うちには来てくれています。やりづらいことは特になくて、好きなものと好きな人と、いい人間関係の中で仕事ができているので、すごくいいですよ。

緑川久美院長
うめやしきアニマルクリニック 院長・緑川久美先生(院長紹介)

西洋医学と東洋医学、両方のいいとこ取りでやっています

——開院するとき、どんな病院にしようと思い描いていましたか?

最初の理想で言うと、西洋医学では手が届かない、どうにも解明できない、よくわからない病気というのがあるわけです。そういうものに、東洋医学なら手が届くんじゃないか。そこから、まず東洋医学をやり始めたんです。実際、それがぴったり当てはまることが結構あるんですよ。

そういう経験があるので、同じことで悩んでいる患者さんや、苦しんでいる動物の助けになればいい、というのがひとつです。もうひとつは、中医学はまだなかなか知られていないんですけど、医療として素晴らしいものがあるので、もっといろんな人に知ってほしいと思っています。最初にそういう思いで始めたのは、間違いないです。

院長によると、中医学では、いまの体の状態を見て、必要なこととそうでないことを分けて考えます。たとえば体に熱がこもっているなら、まず熱を下げてみて、どうなるかを見る。そこで次に目立ってきた症状を治す。そうやって一つずつ、治療の道筋を立てていくそうです。

この道筋が立てられるのが、東洋医学の強みです。だから、そんなに難しくはないんです。ただ、こんなに簡単なことに気づくのに、私も9年かかりました。毎日毎日、そういうことばかりずっと考えるんですよ。やっと点と点が線になって結びついて、ちゃんと治療ができるようになったのは、ここ最近です。

取材の終わりに、院内の生薬の棚を見せていただきました(冒頭の写真)。ガラスの瓶に、ミカンの皮の陳皮やタツノオトシゴなどが並んでいます。セミの抜け殻は、咳止めに使うそうです。

——初めて来られる方は、どういう流れが多いですか?

紹介の方が多いです。今はどちらかというと、そちらが多いですね。なので、それこそ今までの病院での経過を全部ここに並べて、一つひとつ確認しながら診ています。それが大変なんですけど、西洋医学をやっていてよかったと思うのは、そういうときです。

私は十何年も西洋医学をやってきたので、西洋医学のいいところも悪いところも、はっきりわかります。もちろん、東洋医学にもいいところがあれば、良くないところもあります。曖昧になることもあるので、そこはしっかり線引きができるように意見を言えるのは、間違いないです。両方のいいとこ取りで、うちはやっています。

だからか、県外の患者さんも結構多いんです。遠い方だと博多の方がいて、オンラインでお薬の治療をしています。東京だと、八丈島から来ている方もいます。この方は、3か月に1回しか来られないんです。フェリーだと8時間かかって動物が弱ってしまうので、飛行機で来られるんですよ。ありがたいですよね。

一番遠い方は、アメリカのラスベガスに住んでいる方です。ウサギを飼っていて、半年に1回ぐらい日本に帰ってくると、日本での今のウサギの治療の最先端について、いろいろ私と話していきます。その情報をラスベガスに持って帰って、かかりつけの獣医に伝えるんですって。

——獣医師の先生同士で、紹介し合うこともあるんですか?

あります。たとえば鍼の紹介状はありますね。「先生のところに鍼で紹介していいですか」「いいですよ」という話は、もちろんあります。

——そういうつながりは、どうやってつくっていったんですか?

鍼に関しては、私が以前、学院にいたので、学院の関係の方からの紹介などがあります。近所の話をすると、犬や猫を診る病院はこの辺りにたくさんあるんですけど、エキゾチックを診る病院はあまりないので、うちで診ていると聞いた近所の先生が、送ってくださったりしていました。地域の先生はみんないい方で、すごくお世話になりました。

ウサギを診る緑川久美院長
診ている動物は、犬猫とエキゾチックアニマルが半々ぐらい(写真: 公式サイト)

飼い主さんに「病気を見つけなさい」とは言いません

取材の日も、院長は「うちは座りスタイルでやる診察なので、ゆっくり、ゆっくりやります」と話していました。

最初はみんな、病気で来るんです。でも、ワンちゃんや猫ちゃんが元気になっていくわけでしょう。そうすると、ワンちゃん猫ちゃんを連れてきているのに、みんな自分の話しかしないんですよ。「先生、この間こんなことがあってさ」とか、「何を食べたらいい?」「どうしたらいい?」とか、そんな話で1時間ぐらい経つんです。

——元気な姿を見ておけると、具合が悪くなったときに、どう違うかも分かりますよね。

その通りです。うちの病院は、どちらかというと養生法を中心にやっています。養生は、健康に、健やかに過ごすためのものです。みんな、病院は病気になって行くところだと思っていますよね。特に動物はそうです。

人間なら自覚症状があって、病院に行くかどうかは自分の意思で決められます。でも、動物にはそれがないんです。飼い主さんはお医者さんではないので、病気を見つけることはできません。長けていないんです。だから私は、「病気を見つけなさい」とは言いません。

それなら、定期的に病院に連れて行く習慣をつけておいて、「先生、うちの子をチェックしてください」と言ってもらうのが一番いいんです。うちは毎回、毎月毎月そうなんですよ。散歩がてらふらっと寄って「先生、今うちの子見て」と言われたら、「いいよ」と言って見ます。顔を見て、ベロの状態を見て、呼吸を見て、表情を見て、「うん、大丈夫だね」と伝えるんです。気になるところがあれば、「今度、治療に来て」と言って時間を取ります。

ベロ(舌)の状態を見る「舌診(ぜっしん)」は、中医学の診察方法の一つです。うめやしきアニマルクリニックの健康診断でも、血液検査などに加えて、脈診や舌診、肉球診断などを取り入れています(公式サイト)。

——何もなければ、何もないでいいわけですもんね。

何もないでいいんです。

院長によると、「なんとなく元気がない」と病院に連れて行くと、検査をされて、お金もかかる。そう思うと、なかなか足が向かず、「ちょっと様子を見よう」となりやすいといいます。ところが、2〜3日様子を見ているうちに、思ったより重くなってしまうことも多い。それを避けたいのだそうです。

なので、なるべくなら、何も症状がなくて気づくことがなくても、「元気かどうかのチェックは私がするから、1か月に1回来てね」とお伝えしています。お薬を出していない方にも、だいたい見せに来ていただくようにしています。

——未病、ということですね。

未病です。完全に未病なんですよ。

未病(みびょう)は、検査で異常が見つかるほどではないものの、元気や食欲がないといった状態を指す、東洋医学の考え方です(うめやしきアニマルクリニック公式サイトより)。

——こちらならではの強みは、どんなところでしょう?

開けた当初は、こういう治療をやっていると思わずに、一般的な西洋医学の治療で来る方もいました。そのときも、その子の体や顔を見て気になるところがあると、「今日はお耳がかゆくて来ているけど、皮膚にこういうところが出ているから気をつけた方がいいですよ」とお話しするんです。

秋に来られた方がいて、その子の顔や肉球など、いろんなところに乾燥のサインがたくさん出ていたんです。「今からいろいろ対処しないと、春になったらこの子はかゆみの病気になりますよ。今のうちに体質を直すために、漢方を飲んだり、食事を少し変えたりした方がいいですよ」とお話ししました。その日は、そのまま帰られたんですけど、春になって、かゆみの病気で来られたんです。

小型犬を診る緑川久美院長
症状がなくても、1か月に1回は見せに来てもらう(写真: 公式サイト)

中医学を、この梅屋敷に浸透させていこうかな

うめやしきアニマルクリニックでは、開業当初から毎月1回、飼い主さん向けの勉強会を開いています。

当初は全然人が来なくて、一人だけのときもありました。マンツーマンでやっていたんですよ。五行のお話をしたり、気血津液、気とは何か、血とは何か、といったお話をしたりします。今なら季節は秋ですよね。秋の養生法として、こういう生活習慣で、こういう食事をとって、こういうことをしましょう、というお話をするんです。オンラインでもやっています。

五行(ごぎょう)は、自然界のものを木・火・土・金・水の五つの性質でとらえる、中医学の基本の考え方です。気血津液(きけつしんえき)は体をつくり支える気・血・津液(体の水分)のことで、この病院では、このバランスが保たれた状態を健康と説明しています(公式サイト)。

今はもう、勉強会も満員なんです。満員といっても、ここでやるので、入れても10人だけですけどね。

中医学に興味を持つ方は、たぶん、自分のワンちゃん猫ちゃんが中医学で健康に、元気になっているのを目の前で実感しているから、いいものだとわかってくれているんです。それを少しでも学びたい、という意欲を持って来てくださる方が、少しずつ増えてきました。それを、この梅屋敷に浸透させていこうかなと思っています。

待合室に掛かる猫と犬の経絡チャート図
待合室の、猫と犬の経絡(ツボ)チャート図と、勉強会「秋の養生2026」の案内

院長は毎朝、病院の公式LINEで、その日の予定や、天気に合わせたお散歩の注意を送っているそうです。

そこに一つ、コラムのようなものも書くんです。どうでもいい話もするんですよ。

緑川久美院長

飼い主さんに、病気を見つけることは求めない。その代わりに、元気なうちから月に1回、顔を見せに来てもらう。家でできる養生は、勉強会や毎朝のLINEで伝えていく。病院を、具合が悪くなってから行く場所ではなく、元気なときから通う場所にしようとしているのだと感じました。

うめやしきアニマルクリニック

うめやしきアニマルクリニック

所在地東京都大田区大森中2-3-14
アクセス京急線「梅屋敷駅」から東通り商店街方面へ徒歩3分。駐車場なし
電話03-6436-8951
診療対象犬・猫・ウサギ・ハムスター・鳥・モルモット・チンチラ・ハリネズミなど(そのほかの動物は要相談)
診療西洋医学に鍼灸・漢方などの中医学を組み合わせた診療。健康診断では、西洋医学の検査に中医学の検査(体質診断・脈診・舌診・肉球診断など)を組み合わせる
予約予約制。初めての方はまず電話で相談。初診は診察時間が長くなるため、時間に余裕を持って来院する
鍼灸予約制。初めての鍼灸は1時間以上かかることもある。緊急性の高い症状には向かず、適応できない病気もあるため、診察したうえで方針を決める
持ち物セカンドオピニオン(別の獣医師の意見を聞くこと)を希望する場合は、飲んでいる薬、血液検査の結果、画像など、今の治療がわかるもの
そのほかトリミング、ペットホテル(ペットホテルは通院している方のみ)。飼い主さん向けの勉強会(毎月・通院している方が対象)
公式サイトうめやしきアニマルクリニック(Instagram)

診療時間や休診日、勉強会の日程は、公式サイトでご確認いただけます。