食事の量を25%控えて育てた犬は長生きしたのか ― ラブラドール・レトリーバー48頭の生涯比較
この論文が確かめたこと
子犬のころから一生、食事の量を25%控えると、犬の寿命や老化にかかわる指標、慢性の病気が始まる時期が変わるかを、ラブラドール・レトリーバーで確かめた研究です [1]。
どんな研究か
この論文は購読制で、オープンアクセスではありません。本稿では論文本文を確認できていないため、この論文の抄録 [1] と、同じ研究グループが2008年にこの研究全体をまとめた総説 [2] で確かめられる範囲に限って紹介します。
研究の形は、2頭を1組にして食事の量だけを変える「ペア給餌試験」です [1]。48頭のラブラドール・レトリーバーを、生後6週の時点で7つの同腹(同じ母犬から生まれたきょうだい)の中で性別と体重が近い2頭ずつの組にし、組の中でどちらの群にするかを無作為に決めました [2]。生後8週から、対照群には同じドライフードを食べたいだけ与え、制限群には組の相手が前日に食べた量の75%を与えました [2]。フードは両群で同じで、違うのは量だけです [2]。
研究は1987年、もともとは股関節への影響を調べる目的で始まり、2歳の時点で一生を追う研究に延長されました [2]。3.25歳の時点で全頭を成犬用のフードに切り替え、対照群も重い肥満を防ぐため、理想体重から計算した一定量を与える方法に改めています [2]。制限群は、その後も組の相手より25%少ない量を与えられました [2]。
血液の検査、体型の評価(ボディ・コンディション・スコア、BCS)、体の組成の測定は12歳まで毎年行われました。比べたのは、慢性の病気が始まった年齢と、中央値の寿命(半数が亡くなった年齢)、最大寿命(90%が亡くなった年齢)です [1]。最後の1頭は2001年、14.5歳で亡くなりました [2]。
分かったこと
制限群は対照群より体重が軽く、体脂肪が少なく、血液中の中性脂肪、甲状腺ホルモンの一種(トリヨードサイロニン)、インスリン、ブドウ糖の濃度が低くなっていました [1]。中央値の寿命は制限群で有意に長く、慢性の病気の症状が出始める時期も全体として遅れました [1]。
2008年の総説によると、中央値の寿命は制限群13.0年、対照群11.2年で、差は1.8年でした [2]。対照群がすべて亡くなった時点で、制限群は9頭(37.5%)が生きていました [2]。成犬期の制限群の体重は対照群のおよそ75%で、6〜12歳のBCSの平均は、対照群6.7、制限群4.6でした [2]。長く制限を続けても、骨格の成熟や構造、骨の代謝に悪い影響は見られなかったと報告されています [2]。
何らかの慢性の病気で長期の治療を始めた年齢の中央値は、対照群9.9歳、制限群12.0歳でした [2]。死因となった病気の種類は両群でおおむね似ており、主に違ったのは時期でした [2]。X線で確認した股関節の変形性関節症は、研究の終わりまでに対照群の83%、制限群の50%に見られました [2]。また両群を合わせて見ると、体脂肪が多いままであることと、筋肉などの除脂肪量が減っていくことが死亡を予測し、その関係は亡くなる1年前に最も強く表れていました [2]。
この研究の限界
対象は研究用に飼育された1犬種48頭(各群24頭)で、家庭で暮らす犬や他の犬種にそのまま当てはまるかは、この研究だけでは分かりません [2]。治療や安楽死も、この犬たちが属していた約1000頭の集団で決められた手順に従って行われ、48頭のうち46頭が安楽死、2頭が自然死でした [2]。
比べたのは「組の相手より25%少ない量」と「対照群の量」です。対照群は3.25歳以降は量を決めて与えられていましたが、6〜12歳のBCSの平均は6.7でした [2]。このため、食べる量を減らしたこと自体の効果と、体脂肪の少ない体型を保ったことの効果は切り分けられません。総説でも、長生きにつながったのが摂取エネルギーの少なさなのか体脂肪の少なさなのかは、動物種による違いも含めてまだ明らかでないとしています [2]。
寿命の比較は最初の目的ではなく、2歳の時点で加えられたものです [2]。また、筆頭著者の所属はネスレ・ピュリナ・ペットケア社のペット栄養研究部門で、抄録には資金源の記載がありません [1]。
診療・暮らしとのつながり
その後、家庭で暮らす犬を対象にした大規模な観察研究が行われています。北米の約900の動物病院の記録から、避妊・去勢済みの中年期の犬50,787頭(12犬種)を振り返った研究では、中年期に太りぎみと記録された犬は12犬種すべてで寿命の中央値が短く、差が最も大きかったヨークシャー・テリアでは太りぎみ13.7年、標準16.2年、最も小さかったジャーマン・シェパード・ドッグでは12.1年と12.5年でした [3]。著者らは、この結果が研究用の集団で行われた本研究の知見を家庭犬に広げるものだとしつつ、後ろ向きの観察研究のため因果関係は言えないと述べています [3]。著者はいずれも、マース社の傘下の研究所、動物病院、ペットフード会社との雇用や資金の関係を開示しています [3]。
世界小動物獣医師会(WSAVA)の栄養評価ガイドライン(2011年)は、体温、脈拍、呼吸、痛みの評価に続く5番目の項目として、栄養評価をすべての動物の身体検査に組み込むことを提案し、9段階のBCSで多くの動物の目標を4〜5としています [4]。同時に、この目標は犬と猫の限られた数の研究にもとづくと明記しており、その中には本研究と同じ犬たちの初期の報告(1992年、成長期の股関節形成不全)が含まれています [2][4]。また、犬の維持に必要なエネルギー量には上下30%ほどの個体差があるとしています [4]。
指針に取り入れられているのは、体型を評価して目標の範囲に保つという考え方で、食事の量を一律に25%減らすという形ではありません [4]。この研究の結果だけで、個々の犬に合う食事の量を決めることはできません。
論文の情報
- 題名: Effects of diet restriction on life span and age-related changes in dogs
- 著者: Kealy RD, Lawler DF, Ballam JM, ほか7名
- 誌名: Journal of the American Veterinary Medical Association
- 発行年: 2002年(220巻9号、1315–1320ページ)
- DOI: 10.2460/javma.2002.220.1315
- オープンアクセス: いいえ(購読制。本稿は抄録と関連論文で確かめた範囲で書いています)
- 研究デザイン: ペア給餌試験(研究用の犬を2頭ずつ組にして食事量を比べた介入研究)
- 所属と資金: 筆頭著者の所属はネスレ・ピュリナ・ペットケア社のペット栄養研究部門です。抄録には資金源の記載がありません [1]
参考文献
- Kealy RD, Lawler DF, Ballam JM, et al. Effects of diet restriction on life span and age-related changes in dogs. J Am Vet Med Assoc. 2002;220(9):1315-1320. 原典を開く(2026年9月28日確認)
- Lawler DF, Larson BT, Ballam JM, et al. Diet restriction and ageing in the dog: major observations over two decades. Br J Nutr. 2008;99(4):793-805. 原典を開く(2026年9月28日確認)
- Salt C, Morris PJ, Wilson D, Lund EM, German AJ. Association between life span and body condition in neutered client-owned dogs. J Vet Intern Med. 2019;33(1):89-99. 原典を開く(2026年9月28日確認)
- WSAVA Nutritional Assessment Guidelines Task Force Members, Freeman L, Becvarova I, et al. WSAVA Nutritional Assessment Guidelines. J Small Anim Pract. 2011;52(7):385-396. 原典を開く(2026年9月28日確認)