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論文紹介

猫の腎臓は、なぜ急な傷から回復しにくいのか ― たんぱく質AIMを調べた実験研究

公開 2026年9月28日/更新 2026年9月28日 著者 動物病院ナビ編集部

この論文が確かめたこと

猫のAIMというたんぱく質が、腎臓が急に傷ついたときに本来の役目を果たせず、それが傷からの回復を妨げているのかを、細胞、遺伝子改変マウス、猫の試料を使って調べた研究です [1]。

どんな研究か

猫は他の動物に比べて慢性腎臓病(CKD)になりやすく、それで亡くなることも多いと知られていますが、その理由ははっきりしていませんでした [1]。

AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)は血液中を流れるたんぱく質で、ふだんはIgMという大きな抗体に結合しています [1]。著者らの以前の研究では、ヒトやマウスで腎臓が急に傷つく急性腎障害(AKI)が起きると、AIMがIgMから離れて尿の中に移り、腎臓の細い管(近位尿細管)をふさぐ死んだ細胞の残骸にくっついて、尿細管の細胞による片づけを促すことが分かっていました [1]。AIMを持たないマウスでは片づけが進まず、腎臓の働きが悪化して死亡率が高くなります [1]。

この論文は、猫のAIMがこの仕組みの中で同じように働くかを調べた実験研究(基礎研究)です。主に次の4つが行われました [1]。

  • 30頭を超える猫の血液で、AIMの量と形を調べる
  • 分子どうしの結合の強さを測る方法(表面プラズモン共鳴)で、猫とマウスのAIMがIgMに結合する強さを比べる
  • マウスのAIMを猫のAIMに置き換えた遺伝子改変マウス(以下、猫型AIMマウス)で、腎臓への血流を一時的に止めてAKIを起こし、経過を比べる
  • 同じ方法でAKIを起こした猫4頭と、自然に起きたAKIで入院していた猫数頭の試料を調べる

分かったこと

猫の血液中のAIMは平均21.2 μg/mL(調べた範囲で8.48〜36.39 μg/mL)で、マウス(2〜3 μg/mL)やヒト(約5 μg/mL)より多いことが分かりました [1]。猫のAIMには構成単位が3つの型と4つの型があり、細胞実験ではどちらも死んだ細胞の残骸の取り込みを促す働きを示しました [1]。

ところが、AKIが起きても猫のAIMはIgMから離れませんでした。猫型AIMマウスでも、AKIを起こした猫でも、IgMから離れたAIMは血液中で増えず、尿細管の残骸にもAIMはついていませんでした。猫では尿からもAIMは検出されませんでした [1]。自然に起きたAKIで入院していた猫の血液でも、IgMから離れたAIMは見られませんでした [1]。

理由を探るため結合の強さを測ると、猫のAIMはIgMに非常に強く結合していました。結合の強さの指標(解離定数KD、値が小さいほど強い)は、猫のAIMで5.97 × 10⁻⁹ M、マウスで5.82 × 10⁻⁶ Mで、猫はおよそ1000倍強く結合していました [1]。原因として、猫のAIMの3番目の単位の表面にある、プラスの電荷をもつアミノ酸の集まりが挙げられています。この部分をマウスの配列に置き換えると、結合は弱まりました [1]。ただし著者らは、結合が強いことに加えて、IgMから離れる仕組みそのものに猫のAIMが反応しない可能性も否定できないとしています [1]。

経過にも差が出ました。AKIを起こした通常のマウス(7匹)は、腎臓の働きの指標である血液中のクレアチニンが1日目をピークに下がり、5日目に75%が生存していました [1]。猫型AIMマウス(6匹)はクレアチニンが上がり続け、3日目までにすべて死亡しました [1]。猫型AIMマウスに、細胞に作らせて精製したマウスのAIMを1〜3日目に注射すると、AIMは尿細管の残骸に集まり、生存率は80%に改善したと報告されています(注射した群7匹、注射しなかった群4匹)[1]。

著者らは、猫のAIMがAKIから回復しにくい原因となり、猫が腎臓病で亡くなることが多い背景に深くかかわっている可能性があると考察しています [1]。

この研究の限界

回復しにくさを直接示した実験の中心は、猫そのものではなく、猫のAIMを持たせたマウスです。猫で調べたのは、実験的にAKIを起こした4頭と入院していた数頭の試料で、猫にAIMを投与した結果はこの論文には含まれていません [1]。

実験の規模は小さく、論文の方法の記載によると、必要な数を事前に計算しておらず、群分けに無作為化を用いず、組織の評価を除いて盲検では解析していません [1]。

また著者ら自身が、AKIが慢性腎臓病に移るかどうかには議論が残ること、猫の慢性腎臓病にはAKIを経ずに起こるものもあることを述べています [1]。この研究は、猫の慢性腎臓病の原因をAIMだけで説明したものではありません。

診療・暮らしとのつながり

2016年以降、別の角度からの研究も出ています。米国ワシントン州立大学のグループは、4単位型のAIMが遺伝子の一部(エクソン3)の重複で生じることを確かめ、慢性腎臓病の猫50頭の診療記録を振り返りました [2]。重複を2本の遺伝子の両方に持つ猫(9頭)は、持たない猫(15頭)より、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)の病期分類で悪化しやすかった一方(オッズ比17、95%信頼区間1.55〜196、p = 0.01)、信頼区間は広く、著者らは後ろ向きの研究であることなどを限界に挙げています [2]。同じグループが1000頭の猫を調べると、重複を両方に持つ猫は19.3%、片方に持つ猫は46.7%でした [3]。両論文の著者の1人は、大学で遺伝子検査のサービスを始める可能性があると開示しています [2][3]。2016年の論文の細胞実験では2つの型の片づけを促す働きに差は見られておらず、この変異と病気の関係はまだ確かめられている途中です [1][2]。

治療への応用では、この論文と同じ研究者を含むグループが2026年に、進行した慢性腎臓病の猫にAIMを投与した探索的な研究を報告しています [4]。抄録によると、血清クレアチニンが2.9〜5.0 mg/dLで、尿毒素の一種(インドキシル硫酸)が5 μg/mL以上だった26頭のうち、AIMを投与した11頭(マウスのAIM 6頭、猫のAIM 5頭)と投与しなかった15頭を比べ、360日時点の累積生存率は投与した群で0.83と0.8、投与しなかった群で0.20でした [4]。ただし、著者ら自身が、効果を確かめるための本試験ではない探索的な研究と位置づけており、規模も小さく、著者2名は論文の公表で利益を得うる企業(IAM CAT社)の株式を持つと開示しています [4]。この論文は本文を確認できておらず、抄録の範囲で紹介しています。

IRISによる猫の慢性腎臓病の治療推奨(2026年版)には、AIMを使う治療は含まれていません [5]。AIMを使う治療は探索的な研究の段階にあり、現時点で標準的な診療に組み込まれたものではありません [4][5]。

論文の情報

  • 題名: Impact of feline AIM on the susceptibility of cats to renal disease
  • 著者: Sugisawa R, Hiramoto E, Matsuoka S, ほか10名(東京大学ほか)
  • 誌名: Scientific Reports
  • 発行年: 2016年(6巻、論文番号35251)
  • DOI: 10.1038/srep35251
  • オープンアクセス: はい(CC BY 4.0)[1]
  • 研究デザイン: 実験研究(細胞実験、遺伝子改変マウス、猫の試料)
  • 研究資金と利益相反: AMED-CREST、AMED、ONSENDO社の研究助成を受けています。著者は競合する金銭的利益はないと申告しています [1]

参考文献

  1. Sugisawa R, Hiramoto E, Matsuoka S, et al. Impact of feline AIM on the susceptibility of cats to renal disease. Sci Rep. 2016;6:35251. 原典を開く(2026年9月28日確認)
  2. Evangelista GCL, Hwang JK, Broughton-Neiswanger LE, et al. Apoptosis Inhibitor of Macrophages in Cats: A Potential Link Between an Exon 3 Variant Allele and Progression of Naturally Occurring Chronic Kidney Disease. J Vet Intern Med. 2025;39(4):e70136. 原典を開く(2026年9月28日確認)
  3. Villarino NF, Hwang JK, Mealey KL. Prevalence of the AIM exon 3 duplication variant, a putative biomarker associated with progression of kidney disease, in 1000 cats. J Feline Med Surg. 2026;28(5):1098612X261445138. 原典を開く(2026年9月28日確認)
  4. Tezuka T, Arakawa H, Kudo K, et al. A clinical impact of apoptosis inhibitor of macrophage on feline chronic kidney disease. Vet J. 2026;315:106545. 原典を開く(2026年9月28日確認)
  5. International Renal Interest Society (IRIS). Treatment Recommendation for CKD In Cats (2026). 原典を開く(2026年9月28日確認)