猫が何度もトイレに行くとき — 尿が出ているかどうかが分かれ目
猫が何度もトイレに行く(頻尿)、トイレで力む、尿に血が混じる、トイレ以外の場所で排尿するといった変化は、膀胱から尿道までの病気(猫の下部尿路疾患)に特徴的なサインです [1]。国内でペット保険に加入していた猫48,187頭の2012年度のデータでは、腎臓から尿道までの泌尿器の病気で保険の請求があった猫は年間12.2%で、オスはメスより多い傾向(オッズ比1.27)がみられました [2]。この症状でいちばん大切な分かれ目は、尿が出ているかどうかです。この記事では、獣医学の資料と専門学会の指針をもとに、考えられる原因、見分け方、急いで受診したいサイン、動物病院での検査と治療の流れをまとめます。
考えられる主な原因
- 特発性膀胱炎: 下部尿路の症状がある猫の多くは、はっきりした原因の見つからない「特発性膀胱炎」です [1]。オスにもメスにも起こり、ストレスとの関わりが考えられています。症状は2〜7日で治まることが多い一方、およそ半数の猫が1年以内に再発します [3]。
- 細菌による膀胱炎: 下部尿路の症状がある猫、とくに若い猫の多くは細菌による膀胱炎ではなく、特発性膀胱炎や尿石のほうがはるかに多いとされています [4]。
- 尿石: 猫の尿石は、ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)とシュウ酸カルシウムが多く、尿が出にくい、血尿、排尿に時間がかかる・痛がるといった症状の原因になります [5]。
- 尿道栓子: 若いオス猫の尿道閉塞は、基質と呼ばれる成分と結晶が固まってできた栓によるものが多いとされています [6]。
- 尿の量そのものが増えている場合: トイレの回数が増えていても、1回の尿の量が多いときは、尿の量自体が増えている(多尿)ことがあります。慢性腎臓病では、のどの渇きと尿量の増加が最初のサインになることが多く [3]、甲状腺機能亢進症でも飲む水の量と尿の量が増えます [7]。
尿が出ているかどうかが分かれ目
オス猫は尿道が長く細いため、尿道が詰まることがあります。尿道の閉塞は医学的な緊急事態で、すぐに獣医師による処置が必要とされています [3]。完全に詰まった猫は、治療しなければ2〜3日で死亡することがあります [3]。尿が出せない状態が続くと、体に老廃物がたまる尿毒症の症状が急速に進み、血液中のカリウムが上がって、心臓の拍動が遅くなったり乱れたりすることがあります [6]。前述の国内データでも、泌尿器の病気はオスに多い傾向でした [2]。
様子の見方
尿が出ているかどうかは、次のような点から確かめます。
- トイレの後に、固まった砂の塊やペットシーツの濡れがあるか。塊がいつもより極端に小さい、または見当たらないか
- トイレに入った回数と、最後に尿が出たのを確認した時刻
- トイレでの姿勢、力み方、鳴き声。動画に残しておくと伝えやすくなります
- 尿の色(赤い、茶色いなど)、トイレ以外の場所での排尿
- 飲む水の量、食欲、元気、嘔吐の有無
獣医師は、飲む水の量、排尿の回数、尿の量の変化を問診で確かめます [8]。複数の猫がいる家庭では、どの猫の尿なのかを分けて見ることも大切です。
急いで受診したいサイン
次のような場合は、尿道閉塞など命に関わる状態のサインのことがあります。
- 何度もトイレに行って排尿しようとするのに、尿が出ない、または数滴しか出ない [3]。
- トイレで鳴く、元気がない、食欲がない、動きたがらない [3]。
- 吐く、脱水している、体が冷えている、ひどくぐったりしている [6]。
米国獣医内科学会(ACVIM)の尿石の指針も、尿石を取り除かずに経過を見る場合について、閉塞が起きたときに飼い主が適切な時期に受診できるよう、尿道閉塞のサインを飼い主に伝えておくことが欠かせないとしています [9]。
嘔吐を伴う場合の見方は、猫が吐くときに考えられることにまとめています。
動物病院での検査と治療の流れ
検査の中心は尿検査で、細菌の培養検査には、おなかから膀胱に針を刺して尿を採る「膀胱穿刺」が適しているとされます [8]。X線検査では3mmほどの小さな結石も写り、必要に応じて超音波検査が行われます [5]。国際的な感染症の指針(ISCAID)は、細菌以外の原因による膀胱炎の猫に抗菌薬を使いすぎないよう、診断を確かめることが特に大切だとしています [4]。
尿道が詰まっている場合は、まず点滴などで全身の状態を安定させてから、鎮静や麻酔をかけて閉塞を解除します [6]。特発性膀胱炎では、痛み止め、ストレスを減らす環境の見直し、トイレの管理、多頭飼いでの猫どうしの関係への配慮、缶詰などのウェットフードの利用、猫のフェロモンに似た成分の製品が治療として挙げられています [1][3]。
尿石のうちストルバイトは、療法食などで溶かす治療が推奨されており、細菌感染のないストルバイトの膀胱結石の多くは、2〜5週間で溶けるとされています。シュウ酸カルシウムの結石は薬や食事で溶かすことができず、症状の原因になっている膀胱の結石は、体への負担の少ない方法で取り除くことが勧められています [9]。
予防と家でできること
- 新鮮できれいな水をいつでも飲めるようにし、尿を薄く保つことが勧められています。ドライフードから缶詰(ウェット)フードに変えると、とる水分を増やせることがあります [3]。環境省のガイドラインも、猫にドライフードを与えるときは飲み水を複数の場所に置くことを勧めています [10]。
- ACVIMの指針は、シュウ酸カルシウム結石の再発予防として、猫では尿比重(尿の濃さの指標)を1.030未満に保つことを目標に挙げ、水分の多い食事で、尿の中で結石のもとになる成分が結晶になりやすい度合いが下がった短期の研究を示しています [9]。
- ストレスを減らす環境として、子どもやほかのペット、慣れないにおいなどから身を隠せる場所(高い棚や囲いなど)を用意し、それぞれの猫が食事、水、トイレ、爪とぎ、休む場所、遊ぶ場所を自由に使えるようにすることが挙げられています。多頭飼いではこうした場所の取り合いが起こりやすいため、とくに大切だとされています。おもちゃで遊ぶ時間をつくること、なでるなどの触れ合いを猫のほうから始めたりやめたりできるようにすること、トイレ以外で排尿しても罰しないことも挙げられています [3]。
- 尿石の予防として、一部のミネラルやビタミンのサプリメントを避けることが挙げられています [5]。環境省のガイドラインは、にぼしや海苔は、マグネシウムのとりすぎから尿路の病気の原因になることがあるとしています [10]。
まとめ
- 猫の頻尿の多くは特発性膀胱炎や尿石によるもので、若い猫では細菌による膀胱炎は多くありません。
- 分かれ目は尿が出ているかどうかです。尿道が完全に詰まると、治療しなければ2〜3日で死亡することがあり、尿道が長く細いオス猫ではとくに注意が必要です。
- 尿が出ていない様子があるときは夜間でも、そのほかのサインがあるときや判断に迷うときも、動物病院に電話で相談してください。
参考文献
- Van Vertloo L. Lower Urinary Tract Disease in Cats. Merck Veterinary Manual(獣医師向け). 原典を開く(2026年9月28日確認)
- Yamazaki M, Inoue M, Sugiura K. Association between age, breed and sex in relation to urinary disorders in insured cats in Japan during fiscal year 2012. J Vet Med Sci. 2016;78(9):1521-1524. 原典を開く(2026年9月28日確認)
- Brown SA. Noninfectious Diseases of the Urinary System of Cats. Merck Veterinary Manual(飼い主向け). 原典を開く(2026年9月28日確認)
- Weese JS, Blondeau J, Boothe D, et al. International Society for Companion Animal Infectious Diseases (ISCAID) guidelines for the diagnosis and management of bacterial urinary tract infections in dogs and cats. Vet J. 2019;247:8-25.(日本獣医腎泌尿器学会誌 2021;13(1):46-63 に掲載) 原典を開く(2026年9月28日確認)
- Brown SA. Urinary Stones (Uroliths, Calculi) in Cats. Merck Veterinary Manual(飼い主向け). 原典を開く(2026年9月28日確認)
- Van Vertloo L. Obstructive Uropathy in Dogs and Cats. Merck Veterinary Manual(獣医師向け). 原典を開く(2026年9月28日確認)
- Peterson ME, Kritchevsky JE. Disorders of the Thyroid Gland in Cats. Merck Veterinary Manual(飼い主向け). 原典を開く(2026年9月28日確認)
- Sanderson SL. Detecting Disorders of the Kidneys and Urinary Tract of Cats. Merck Veterinary Manual(飼い主向け). 原典を開く(2026年9月28日確認)
- Lulich JP, Berent AC, Adams LG, et al. ACVIM Small Animal Consensus Recommendations on the Treatment and Prevention of Uroliths in Dogs and Cats. J Vet Intern Med. 2016;30:1564-1574.(日本獣医腎泌尿器学会誌 2019;11(1):30-40 に掲載) 原典を開く(2026年9月28日確認)
- 環境省. 飼い主のためのペットフード・ガイドライン ~犬・猫の健康を守るために~(1-3 フードの与え方、1-4 与えてはいけないもの、注意が必要なもの). 2018年(2021年更新). 原典を開く(2026年9月28日確認)